心の相談室のご紹介



 こんにちは、山本典子です。

 私は、精神科の医師としてまたボランティアを通して、様々な人々とめぐり逢うチャンスを得、色々なことを学ばせて頂きましたが、折に触れ、「現代社会の弊害は、物質文化の発展のみに心血を注ぎ、精神文化がそれに伴わなかったことに由来している」と、つくづく考えさせられます。度を超えた競争社会は、自由主義を利己主義へと変貌させ、道徳心を失わせ、人々を孤立化させるという悪害をも生み出しました。

ヒトは、大自然の中で生かされ、ヒトの輪の中でこそ、多くのことを学び、経験を積んで人格的に向上して行くという最も根本的な「ヒトとしての生き方」を、いつの間にか置き去りにして来てしまったように想われます。次に、私が常々感じている事を少しお話しさせて頂きたいと思います。


《 自分を大切に思う心 》

 日頃多くの人、特に若者と話していて感じるのは、自分をかけがえのない存在と感じていない人が多い、ということです。世の中で起こる事件の多くも、根底にはこの問題があるように思われます。幼い頃から、物の優劣は他との比較によって決定づけられる競争社会の中で育ち、本来の自分というものを肯定・尊重される機会を与えられなかった結果とも言えるでしょう。

自分という人間は、世界中でただひとりであり、誰もが代わりをすることのできないかけがえのない存在である、と想える事は、実は簡単なことではありません。そのためには無条件の愛が注がれねばならないからです。それは親・家族の愛であってほしいと願うと共に、先生や友人、隣人でもよいのです。自らの尊さを知る人は、他者をも自分と同じように大切に想う事ができます。逆に、自分を価値のない存在と想う人は、やはり他者も価値ある存在と想うことができません。だからこそ、特に子供さんには、常日頃から言葉と行動によって明確に愛情表現を示される事をお勧めしたいと思います。


《 器(うつわ)を満たす 》

 私は若い頃、 「大きな器の人間になりたい」と、よく想ったものでした。 しかしそれは、「小さな器の人間では意味がない」という考えの裏返しでもありました。ボランティアを通して様々な境遇の人に出会い、様々な経験を重ねるうちに、自分の考え方が間違っていたな、と気づくようになりました。人間として大切なことは、自分の器の大きさ如何ではなく、与えられた器を如何にして満たす、つまり活用するか、ということなんだ、と。

現代の競争社会の弊害は、万人こぞって器の大きさを比較し、その中身を無視して器の外殻のみ大きくしようとしたところに生じたのではないでしょうか。大きなコップが手の内にあったとしても、中身が入っていなければ意味をなさないのと同じです。「心が満たされない」とは言い得て妙な現代的な表現です。これからの私達がしなければならないことは、今在る器を満たしていく、ということだと私は確信しています。

つまり、まず自分が持っている物(自分の長所)に気づくこと、そしてそれを持っていることに感謝して「自分らしさ」を慈しみ、大切に育て、その人らしく社会に貢献していくことが、これからの私達が目指す社会をつくっていくのだと思っています。

激動していく社会の中で、独りで悩みを抱えておられる方々のために、微力ながらもお役に立てればと思います。私自身も、相談者の方々との語らいの中、泣いたり笑ったりしながら共に成長させて頂ける《喜び》をかみしめながら毎日を生きています。

「袖触れ合うも他生の縁」必ず乗り越えて、笑える日が来るんだということを一緒に体験したいと思っています。ひとつ深呼吸して、肩の力を抜き、お電話ください。 あなたを応援しています。


 略歴

山本典子 昭和38年生まれ、浜松北高出身

精神科医師、平成11年6月より(公益財団法人)遠州頌徳会の嘱託医として親と子の心の相談室を開設